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書名: 『「あの世」からの帰還――臨死体験の医学的研究――

書誌:
原題  Recollections of Death (c)1982
著者  マイクル・B・セイボム
訳者  笠原敏雄
発行  日本教文社(1986年5月25日初版発行)
私評:
 この本を初めて読んだ頃、私はすでに死後の生(意識の不滅)を信じていたが、それでもこの本を読んだことの“駄目押し”効果は非常に大きかったのを記憶している。
 私は単に意識の不滅を“信じて”いただけで、自分の個人的な体験として“知って”いたわけではなかった。だが本書を読んだ後では、自分の体験でそれを“知って”はいないにしても、今度は疑うことが不可能になったとはいえる。
 臨死状態の患者がその肉体の位置からは絶対に見えるはずのないものを「間違いなく」見ていたことの証明に、なぜセイボム博士がこれほど力瘤を入れたのか、じきに分からなくなる時代がくるだろう。セイボム博士のこの本のありがたさは、博士本人がこの研究時点で“死後の生”を信じていなかったことにあると思う。つまり、博士は、自分自身を納得させるためにこの研究をしたということだろう。
 博士は自分の疑念に、素直かつまともに立ち向かった。これほど念を入れた記述も、それなら納得がいく。このような態度こそが科学的態度というものだろう。
 ところで、2000年の現時点でも、この本はまだ時代遅れになっていない。
 今でもまだ、われわれの医学は肉体の生のみを救うことに汲々とし、意識の不滅という事実にまともフォーカスしようとしていない。
引用:
 セイボム その器械やそれが乗ってた台車について細かいことでお気づきになったことはございましたか。
 患者 正面にメーターがついていた覚えがあります。多分電圧とか電流とかワット秒とかそういうことを計るメーターだと思いますね。
 セイボム そのメーターはどんな感じのものかおわかりになりましたか。
 患者 四角い形で針が二本付いてて、一本は固定される方で、もう一本が動くようになっていました。
 セイボム 針はどんなふうに動きましたか。
 患者 かなりゆっくり起きてくるようでしたね。電流計とか電圧計とかと違って、速い動きはしませんでしたよ。
 セイボム 針はどのくらいのところまで行きましたか。
 患者 最初は時計で言えば、11時から12時当たりを指していました。二回目は12時を超えるところまでいって、三回目は1時半くらいまでいきましたね。(p165)

 一般的な医学的な見地から考えると、本患者が行った蘇生場面の自己視的描写は、集中治療病棟内で熟練した専門家が心肺蘇生を行う際予測される内容と正確に一致している。除細動装置に充電が行われているときに、そのメーターの「固定される」針と「動く」針について患者は的確に描写しているが、その点に私は特に強い印象を受けた。この二本の針の動きは、この装置が使用されている場面を実際に見たことがなければ分からないものなのである。(p170-171)
好み:★★★
(注:独断と偏見によるお薦め度、または記憶による感動度・ショック度。一押し、二押し、三押し、特薦。)
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