書名: 週休五日制による  三世代「菜園家族」酔夢譚
               ――21世紀・日本のグランドデザイン――


書誌:
著者  小貫 雅男
編集  伊藤 恵子
発行  Nomad(映像地域学研究会)(2000年5月1日第1刷発行)
私評:
 モンゴル遊牧社会の研究者である著者は、旧満州の内モンゴル生まれの方だという。
 この事実だけで、著者が獲得している複眼の性質と、日本を客観視する視点が半端なものでないことが納得される。
 日本とモンゴルの間を何回も行き来する長年の研究・調査の中で、著者の中でじっくりと熟成されてきたこれは結論でありヴィジョンであるらしい。
 「ここに提起される日本社会についての未来構想は、この両極を行き来しながら、風土も暮らしも価値観も、日本とは対極にあるモンゴルから日本を見る視点、そして、そこから生ずる何とも言いようのない不協和音を絶えず気にしつつ、長年考えてきたことが下敷きになっているのかもしれません」と著者は言う。
 21世紀の地球で家族制度がどのような運命を辿っていくのかは、軽々に判断はできないにしても、本書の構想が、21世紀に存続を許される持続可能な社会と現在の我々の社会とを現実可能な形で何とか架橋しようとする、ひとつの真摯な模索の軌跡であることは確かだ。(2001.4/5)
引用:
 ここで提起される“週休五日制による、三世代「菜園家族」”の構想は、今日、危機的状況に陥っている家族の再生をまず、基本目標にしています。二〇世紀市場競争の中で、みじめなまでに卑しめられた人間の尊厳を、二一世紀のおいて、なんとか復活させることなのです。この構想は、この目標実現のために、新しい社会の枠組みを提案しています。

 1 三世代「菜園家族」
 この構想では、人々は、週のうち二日間だけ“従来型の仕事”、つまり民間の企業や、国および地方の公共的機関の職場に勤務し、残りの五日間は、「菜園」で作物の手作りの仕事をして生活するか、あるいは商業や手工業、サービス部門での自営業(家族小経営)を営む、ということになります。
 暮らしの大切な根拠地となる「菜園」では、週に五日間、「菜園の仕事」に親しむ同時に、ゆとりのある育児や、子供の教育や、土地土地の風土に根ざした文化活動や、スポーツ・娯楽など、自由自在に、人間らしい人間本来の創造的活動に携わることになります。家族はもともと衣食住の手作りの場であり、教育・文化芸術・手工芸のアトリエであったし、将来においてもそうあるべきものなのです。(p28-29)
好み:★★★
(注:独断と偏見によるお薦め度、または記憶による感動度。一押し、二押し、三押し、特薦。)

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