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「湘南名画鑑賞会」会報 No.10

映写窓の後ろからI

第十二回上映会(上映映画『道』)
1987年4月26日(日)、場所:湘南名画鑑賞会サロン

 前回の『お熱いのがお好き』はいかがでしたか。
 私は昔、あれを新宿名画座で観たのですが、あまり笑って、涙は出るし、お腹は痛くなるしという状態で、本当にもう助けてくれという感じになったのを覚えています。
超満員の熱気に溢れた場内の雰囲気が生み出した一種の魔法だったのかもしれませんが、とにかく、私がこれまで観た映画で一番笑った映画でした。

 それが思い返してみると、一番笑った場面というのが、たいてい、あのジャック・レモンのダフニとJ・E・ブラウンのオズグット(老ドラ息子)の場面なんですよね。
 湘南台の柳沢さんは、「大口ブラウンがいなければ、マリリン・モンローだけではあの映画はできない」とおっしゃっていましたが、本当にそうだと思います。
 あの海上と陸上での二組の恋愛劇の進行があの映画の圧巻なのだと思うのですが、何と言ってもあのタンゴ「ラ・クンパルシータ」ですよね。
 (「ダフニ、お前またリードしとるよ」)

 いや、どうもあのJ・E・ブラウンの目と口の表情ばかりが目に浮かんできて困ります。あれはあの人の人柄なんでしょうか、それとも芝居なのでしょうか。いかにもフロリダの陽気とぴったりの開けっぴろげな目と口でしたね。

 いい映画を観ているとつくづく思うのですが、ある一つの映画に出るということはそれぞれの役者にとっては非常に大きな出会いだということです。まさにその瞬間、その映画の雰囲気でなければ出ない表情がそこに定着されるのですからね。同じ役者さん本人だって二度と再びそんな表情は出せないんでしょうから。

 しかし、ああいうセリフの利いた映画の場合は、原語が分かるのと、字幕を追っていかなければならないのとでは随分違いがあるものなんでしょうね。
 ところで、マリリン・モンローという人の芝居は上手いのかどうか分からないようなところがありますが、地だか芝居だかわからないということ自体、きっと並々ならぬ上手さの証拠なのでしょう。
 何だかあれだけの映画をあんな少しの観客で観たのがちょっと惜しいような気がしました。

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