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VIGYAN BHAIRAV TANTRA 技法 68
絶望する

タントラ秘法の書E
『和尚講話録:覚醒の深みへ』
から抜粋
-68-
雌鳥がひよこの母となるように、
何かの知の母となり、何かの行ないの母となる――
真実の中で。


 鍵となる言葉は、真実の中でだ。
 あなたは実際、いろんな事の母になっている。
 でもそれは夢の中であって、真実の中ではない。
 あなたはいろんな事をやっている。
 でもそれは夢の中であって、真実の中ではない。
 夢の母となってはならない。
 自分の中で夢を増殖させてはいけない。
 自分のエネルギーを夢に与えてはいけない。
 あらゆる夢から身を引くのだ。
 ……。
 あなたはなぜ生きているのか。
 それについて自問したことがあるだろうか。
 今ここに関しては、生きる値するものはない。
 希望があるのみだ。
 あなたはパンドラの箱を持ち歩いている。
 なぜあなたは今この瞬間生きているのか。
 なぜあなたは毎日起床するのか。
 なぜまた一日を繰り返すのか――何度も何度も。
 この繰り返しは何のためか。
 その理由は何か。
 自分が生きている理由は今ここには見い出せない。
 たとえ見い出したとしても、それは未来に関するものだ。
 つまり、何かが起こるだろうという希望、いつか何かが起こるだろう
 という希望だ。
 それがいつかはわからない。
 何が起こるかさえわからない。でもいつか何かが起こる。
 それであなたは自分自身を引き延ばしていく――自分自身を担っていく。
 
 人はただこの希望の中に生きている。
 でもそれは生ではない。
 なぜなら希望とは夢を意味するからだ。
 今ここに生きないかぎり、あなたは生きていない、あなたはただの死物だ。
 そして、あなたの希望をすべてかなえてくれる明日は、けっしてやってこな
 い。
 そして死がやってきたとき、初めて気づく――もう明日はない、もう延期は
 できない。
 
 すると幻滅を感じ、だまされたように感じる。
 でも誰もだましてはいない。
 自分こそがあらゆる混乱の主(あるじ)だ。
 この現瞬間に生きるように努める。
 けっして希望を抱かない――どんな希望であれ。
 現世のものにしろ、彼岸のものにしろ、何の変わりもない。
 たとえ宗教的な希望であったとしても……未来なり、彼岸なり、天国なり、
 ニルヴァーナなり、死後に関わるものであっても、何の変わりもない。
 希望を持ってはいけない。
 たとえ今ここにおいてまったく絶望的であっても、ここにとどまり、今この
 瞬間から動かない。
 動いてはいけない!
 それを苦しみなさい。
 けっして希望を入り込ませてはいけない。
 
 希望を通じて夢が現れる。
 だから絶望するのだ。
 もし生が絶望的だったら、絶望し、それを受け容れる。
 けっして未来の物事にしがみつかない。
 すると突然そこに変化が現れる。
 現瞬間にとどまりさえすれば、夢はやむ。
 もう夢は生じない。
 なぜならその源泉が引っこんでしまうからだ。
 夢に手を貸しているからこそ、夢の母となっているからこそ、夢が生じる。
 だから夢に手を貸したり、夢の母となったりしない。(p191-p193)