今私たちの星は、ますます速度を速めながら、ある定められた臨界点に向かって宇宙空間を疾走している。 恐れと、それに勝る大いなる期待に満ちて。 それはまさに、期待を秘めながら一種諦めにも似た待機の中で、恐怖と困難に満ちた産道に向かって進んで行く胎児の姿に他ならない。 すでに明らかに、母親の陣痛は始まっている。 全体の準備万端は整っている。 かなりの難産は予想されても、もう引き返す道はない。 このまま子宮の中にとどまることは、自ら死を招くことでしかないのだから。 全体の脈動に身を委ねて流れて行くより、もう他にできることはない。 胎児は胎盤からの剥離を開始している。 胎盤は胎児を誕生させるための準備に他ならなかった。 胎盤が新しく待っている世界で生きられるわけではないのだから。 胎盤の存在理由はここまでの旅で完了していたのだ。 今私たちを乗せた地球は、明らかに二重の世界を展開しながら、恐ろしい速さでその二つの世界の剥離と引継と移行の過程を駆け抜けて行っているようだ。 表層の世界では、どこまでも従来のゲームを続けていられるような幻想を維持しながら、ますますエスカレートする最後の狂気を膨大に噴出させている。 現在世の中の表面を覆っているその世界は、じつは内心の深いところではすでに自らの存続を信じていない。 けれどもまた、この狂気の世界はその軌道を自己修正する能力もすでに失っている。内に秘めた深い絶望のまわりに、いたずらに最後の騒音のボリュームを挙げることだけに躍起にならざるをえない。 だがその表層の下には、膨大な時間の中を、氷付けにされて運ばれてきたある種子が、本格的な解凍を終えて今まさに生き生きと脈動を開始している。そして、その種子は信じられないような速さで成長し始めている。 まるで、新しい世界に生きることになるのが自分であることを当然のこととして知っているかのように……。 (p14-16) |