home > 仕事 > 『21世紀への指導原理 OSHO』より > 「価値」:肉体の欲望


『21世紀への指導原理 OSHO』より

    「価値」:肉体の欲望


 物理次元に生きる生物として、私たち人間はまず肉体を維持しなければならない。
 肉体の維持は、まず何よりも切実な「必要」で、必ずしも「欲望」とは言えない。
「全体」からの分離を決めたとき、私たちはまず自分を皮一枚の中に閉じ込められた肉体存在だと思い込む大きな約束ごとの世界に入った。
 そして、肉体を維持する「必要」に追われた長い長い歴史の蓄積の中で、その「必要」は私たちのあらゆる「欲望」の最も堅固な外皮となった。

 私たちは食料を求め、また食料を求める手段を求め、それらを「価値」として抽象し、その具体的表現である貨幣を求めた。
 肉体の維持に起因する「欲望」は多岐にわたった。
 最小限の個体の維持からその個体の快適さの追求、快楽の追求、安全保障の拡大欲求、そして種の維持までを覆う膨大な範囲が含まれるだろう。
 そのように追求されるものを、「価値」という言葉で代表しておくことにしよう。
 この「価値」を追求している主体を仮に肉体という言葉に代表させるなら、この欲望の位相を総称して“肉体の欲望”と言っていいだろう。

 つまり「欲望」の第一の階梯は、最も堅固な位相である“肉体の欲望”であり、“肉体の欲望”は「価値」を求める、と。

「価値」は、具体的な対象の範囲を限定しない。それはあるいは実質的なパンであるかも知れず、その他の衣食住に関わる「価値」物、「価値」獲得の手段となる教育、技能、あるいは他人に対する支配力、権力でさえあるかもしれない。
 だがそこで追求されるものが「価値」である限り、そこにはひとつの固有の色合い、つまり肉体の維持の「必要」性からくる色合い、肉体の滅亡からの逃走、すなわち「死」の恐怖がそこに影を落としていると言える。

 物理次元の最も濃密な「時間」幻想の中で、「時間」に逆らって肉体を維持することを目指す“肉体の欲望”は、「欲望」の最も粗い位相といえる。
 それは有無を言わさぬ「欲望」であり、「欲望」の対象物の「価値」はその位相の中では自明と考えられている。
 したがって、“肉体の欲望”は欲望の対象である「価値」を“略奪”し、“奪取”し、“獲得”することもできる。そこでは、誰もがその対象物の「価値」を認めており、「価値」の追求は本来は切迫した「必要」に裏打ちされている。
 縞馬を雌ライオンが狩りをし、それを牡ライオンが横取りして最もおいしい部分を食べ、その残りを狩りをした雌ライオンたちが食べ、続いて子ライオンが、その後をハイエナが、そしてコンドルが最後の仕上げをするような世界を想像すれば、「価値」の意味は明らかだ。

 だが、「時間」幻想を持たず、単純な“今ここ”を生きているライオンの場合は、その行為は切迫した「必要」ではあっても「欲望」ではない。
 けれども、「時間」幻想に入った私たち人間の場合は、この「必要」は「欲望」と化し、“肉体の欲望”とも言うべき固有の位相を形成してマインドの世界の中でどこまでも肥大して行く。

“肉体の欲望”が求める究極を、ある量の大きさで指定することはできない。
 本来「必要」であったものも、いったん「欲望」に変容すれば、無際限の保障を求めて自己増殖していく。
 ある「欲望」(部分意識)は地球人類を支配してもなお「死」の恐怖に駆られるかも知れず、百億千億の金を集中してもなお安心できないかもしれない。
 ただ、“肉体の欲望”はあくまでも「個」の物理次元での生存に固執するために、このレベルを純粋に追求すると、それは何時か“支配”、“被支配”といったパワー・ポリティックスの世界を展開することになるだろう。

“肉体の欲望”の対象が、誰にとっても自明な「価値」であり、しかもたいていはその対象がどの個人にとっても強制的な共通領域である物理的存在物の形を採るため、「価値」の“獲得”はしばしば“葛藤”を呼び、“競争”となり、時には“戦い”をさえ引き起すことになった。
 同一の対象を狙う競合相手を打倒することは、「価値」の“獲得”では目的にかなった行動だったからだ。
 この“肉体の欲望”という位相は、切迫した「必要」に裏付けられた確かな核から、安全保障という無際限の悪夢の中に雲散して行くような、いわば逆三角形の層をなして広がっているように思われる。

“肉体の欲望”の志しを一言でいうなら、それは“生き残る”ことだといえる。
 どの部分意識にも“肉体の欲望”と呼ばれるような最も堅固な「欲望」の位相が存在するだろうが、誰もがその位相の中に何時までも閉じ込められているわけではない。
 本来の「必要」がある程度満足させられると、“肉体の欲望”という固有の夢の領域にどこまでも執着するのではなく、それとは別のもう少し微細な、より内側の「欲望」を起動する個人が存在した。 (p275-278)

home】 【挨拶】 【本棚】 【映画】 【N辞書】 【R辞書】 【随想】 【仕事】 【通信】 【連絡