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『21世紀への指導原理 OSHO』より

    「意味」:マインドの欲望


 例えば人が海外旅行をするとき、その旅行を生存のための安全保障の拡大を目指す行為とするのは、やはり少し無理なところがあるだろう。
 無論、生存のための手段であるような旅行も確かに存在する。
 けれども、それとは別の「欲望」に根拠を持つ旅行があることは誰もが知っている。
 旅行が、経験そのものを目指す行為である場合だ。
 そこでは、旅行者は金銭によっては得られないもの、経験そのもの、見聞と理解と、そのことによる人間的成長そのものを求めている。

 つまり、肉体の維持が満足された状態から出発する「欲望」、肉体の維持については安心し、その前提の上で発動するような「欲望」の位相が存在するということだ。
 そこには明らかに肉体の維持とは別な意図が秘められている。
 彼は、自分が何のために肉体を維持しているのかを問題にし始めている。
 自分が何のために生まれてきたのか、自分が何者であるのかを発見し、実現したいという「欲望」だ。
 彼は自分の人生の「意味」の発見を、その「意味」の実現を求めている。あるいは、彼は自らの「アイデンティティ」の確立を求めているのだと言ってもいい。
 肉体の維持だけでは満足できないこの位相の「欲望」が求める対象を、総称して「意味」と名付け、この「意味」を求めている「欲望」の主体を「マインド」と呼んでおくことにしよう。

 つまり、「欲望」の第二の階梯は、“マインドの欲望”であり、“マインドの欲望”は「意味」を求める、と。

 濃密な「時間」幻想の中で、肉体の「死」を避けられないものとして受け入れたとき、私たちは肉体に代わる何か形あるものに自らを託して生き延びようとする。
 その思いを物質的な肉体のレベルに固定したのが、子孫、家、私有財産といった種の保存欲求だろう。そこでは、種として物理次元に生き延びることに満足して、自分という「個」を残すことを諦める。

 だが逆に、物理次元に生き延びることを諦めて、種族の“想念”の世界の中に、つまり「意味」の世界の中に自分という「個」を残そうとする選択もある。
 彼は自分が生きた証しを、子孫の繁栄や、私有財産の中にではなく、人類史の中に「意味」としてとどまることに求めた。
 つまり、「意味」の“実現”に賭けたのだ。
 そのような彼が求めるものは、誰もがその必要性を認めるような「価値」ではありえない。それは、“奪取”したり、“獲得”できるようなものではありえない。
 彼は自らその「意味」を“発見”し、“実現”し、“達成”しなければならない。

 彼が求めているのは、何かを“実現”することであり、その“実現”した「意味」が何時か他者の目によって確認されることだ。
 彼は自分の生き残りに間接的な方法を採った、ともいえる。
 確かにある種の自己実現を求めているのだが、その実現の結果が他者の目によって“認知”されることを望んだのだ。
“マインドの欲望”が選択したこの間接話法のために、「意味」の“実現”にはもっぱら“比較”とか、“構造”への“参照”手続きが必要になった。

 ある人たちはどこまでも衣食足りたことを認めなかったが、ある人たちは衣食足りて「意味」の実現に向かった。
 彼は自分の人生が無意味であることに耐えられなかったのだ。
 そして彼は、何かの根拠に基づいて、何らかの“構造”という文脈の中で、何かとの“比較”によって、「意味」として留まろうとしたといえる。

“マインドの欲望”が求めかつ“実現”する対象の究極の姿を言い当てることはできない。そこにはさまざまな形、さまざまな大きさがあるだろう。
 それは、ある種の偉大さを求めるのだと言えるかもしれない。
 だがそれが“マインドの欲望”である限り、そこには必ず“比較”の影が落ちているだろう。
 場合によっては、「意味」を達成する過程で“競争”というプロセスを通り抜けることもあるかもしれない。ただ“肉体の欲望”の位相とは違って、競合相手を打倒するというような意味の“戦い”は、「意味」を“発見”し、“実現”する本来の過程の中には現れない。ただ、自らの人生の「意味」を“実現”するには、積極的に、果敢に人生に乗り出さなければならないだろう。
 そこにはマインドが本来持つ攻撃性が秘められているだろう。

 つまり、“マインドの欲望”の志しを一言でいうなら、それは“成ること”だといえる。

 しかし、時に名誉を求め、時に偉大を求めることになったこの“マインドの欲望”も、“比較”を手段とし、“構造”への“参照”を介して「意味」の“実現”を目指す過程で、ある確かな手ごたえの中に収斂して行く場合があった。 (p278-282)

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