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『21世紀への指導原理 OSHO』より

    欲望のヘキサグラム


 恐らく私たちのさまざまな「欲望」は、常に単一の位相で現象しているわけではなく、現実には複数の位相の「欲望」が重複して現象しているのだろう。
 言い換えれば、「欲望」の各位層は、明瞭な境界線によって区分された階層構造として分布しているのではないと思われる。
 今ほんの座興に、「欲望」の各位相が分布している様子を思い浮かべるために、平面上の視覚的展開を試みてみよう。

 例えば今、目の前にひとつのヘキサグラムを思い描いてみる。
 上向きと下向きの二つの正三角形を半分ずらして重ねると、中央の正六角形を六つの正三角形が取り囲む形ができる。「六芒【ぼう】星」とも「ダビデの星」とも呼ばれ、イスラエルの国旗となっている図形だ。

 今、下向きの大きな正三角形は、私たちを大地に引き付ける引力の働きを表しているものとする。つまりこの逆三角形は、いわば物理次元に縛り付けられた“肉体の夢”を表しているわけだ。
 一方上向きの大きな正三角形は、引力圏からの離脱を夢見る“魂の憧れ”を表しているものとする。
 この“魂の憧れ”は三段ロケットで構成されており、下から、一段目は“マインドの欲望”、二段目は“ハートの欲望”、そして三段目は“魂の欲望”となっているが、ただ実際のロケットと違っているのは、必ずしも一段目のロケットを切り離してからでなければ二段目に点火しないわけではないということだ。

 厳密ではないが、上下二本の水平線に囲まれた中間地帯が、濃密な「時間」幻想の支配領域を表しているものとしよう。
 また、“魂の憧れ”の底辺である下の水平線の下部は、「時間」幻想以前、言い換えればマインド以前としよう。また“肉体の夢”を表す逆三角形の上の水平線の上部は、もっぱら「時間」幻想の超越への希求、つまりマインドの彼方に対する強い憧れの領域を表しているものとする。
 つまり“肉体の夢”は、物理次元における「欲望」の最も固い中核、すなわち肉体維持の「必要」を表す逆算角形の下の頂点を起点とし、そこから濃密な「時間」幻想の中で未来の安全保障を求めて肥大し、散乱し、具体性を失いながら大きな逆算角形の領域に広がっていると考える。

 一方、“魂の憧れ”は、取りとめもないランダムな好奇心から出発して、「時間」幻想の中をひたすら究極の「意味」と「構造」をもとめて収斂して行くような大きな三角形をなし、最後には一番上の頂点でその憧れそのものも消失すると考える。
 すると、“肉体の夢”の下方、小さな逆三角形の部分は、おっぱいを求めて泣く赤ん坊の「欲望」、狩をするライオンの「欲望」とでもいった領域で、厳密な意味では、それは「欲望」ではなく「必要」ということかもしれない。
 小さな逆三角形の上辺、つまり正六角形の下の辺は、いわば人食い人種の「欲望」を連想させるとでもいおうか。

“肉体の夢”と“魂の憧れ”の重なる部分、つまり二つの三角形が重なった真ん中の正六角形が、私たち大部分の人間が住む“欲の娑婆”ということになるだろう。
 物理次元の住人として、肉体として留まるべき「必要」を負いながらも、私たちは<意識>として覚醒しようとする深い憧れを秘めている。
 そのような私たちが、内側から深い解放を求める性エネルギーによって衝き動かされながら、“欲の娑婆”でさまざまな“夢”を見る日常を送っているわけだ。

 すると、“肉体の夢”を表す逆正三角形の上の両端の部分、二つの小さな逆正三角形のあたりは、「時間」幻想の中であてどもなく逸脱し、肥大し、散乱して行くいわば“肉体の欲望”プロパーの世界で、いってみれば、極端な安全保障を追求し、戦争、核兵器の開発といった破壊思考にまで到るパワー・ポリティックスの世界を連想させる。
 さしずめ、両端の頂点は支配欲に取り憑かれた狂気の政治家や「死の商人」の「欲望」を、そして正六角形との境界線は、SDI計画に参画する科学者たちの、若干弱々しく明朗さを欠いた複雑な「欲望」を思わせるとでもいおうか。

“魂の憧れ”を表す上向きの正三角形の下の両端の部分、二つの小さな正三角形のあたりは、“肉体の夢”というこの世の心配からは解放され、いまだまどろんでいるともいえる子どもの頃の知的好奇心を連想させる領域だろうか。
 これは、芸術と科学の根本のエネルギーであるランダムな興味と発見の領域、いってみれば「センス・オブ・ワンダー」の領域ともいえるだろう。
 それらのまどろんでいる“魂の憧れ”は、いつかこの世の“肉体の夢”と重なり、統合的な中心を持ち、ある目的に沿って展開し始める。六角形との境界線の辺りだ。
 かくて、さまざまな目的を持ち、さまざまな仕事をする私たちの通常の日常が流れる“欲の娑婆”、中央の正六角形に入って行く。さまざまの位相の“魂の憧れ”と“肉体の夢”が混合して、私たちの一つひとつの具体的な「欲望」が生起している領域だ。

 この世界の中で極度の集中が起こり、性エネルギーの転換が起こっていく時、一瞬「時間」が止まるような「歓び」の瞬間が発現し始める。
“魂の憧れ”の上端部分、一番上の小さな正三角形の底辺が連想させるものだ。
 この小さな正三角形は主として、性エネルギーがマインドの靄を突破し、「歓び」そのものを支えるように昇華された“ハートの欲望”の領域だろう。ここで、性エネルギーそのものの純粋な機能快が発現する。
 この正三角形の頂点に近づくにつれ、創造行為は瞑想そのものと極めて近いものとなり、ついには、「時間」の停止そのものを希求する。この正三角形の頂点近くで、「欲望」の最後の位相“魂の欲望”が露出する。
 そしてそれはひたすら彼方なるものへの「欲望」、全体とのオーガズムに向かって収斂して行くのかもしれない。

 肉体の中で性エネルギーとして物質次元に突出した<意識>は、逆三角形の下の頂点で「欲望」として出現し、上向きの正三角形の一番上の頂点で「欲望」としての消滅を迎える。
 この頂点が表すものは男女両性の「融合」、「統一」でもある。だから、それは性エネルギーの最も純粋な直接話法、すなわち男女の性の交わりの極みにおいて現れるエゴの消失の体験を表すポイントだともいえる。
「欲望のヘキサグラム」の下の頂点はホワイト・ホールに、上の頂点はブラック・ホールに対応しているともいえるかもしれない。 (p300-304)

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