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『21世紀への指導原理 OSHO』より

「比較」、不幸になるための秘訣


 私たちがこれまでの世界を卒業して二一世紀からの新しい世界に入って行くには、どうしても卒業しなければならないものがある。
 それは、「比較」と呼ばれる大きな<ソフト>だ。
 どういうわけか私たちはこの「比較」という詐術に深く絡め取られてしまった。
 これまでの地球では、私たちはこの「比較」によって分裂させられ、次の段階に進むためにどうしても必要な「欲望」の昇華を妨害されてきた。
 この<ソフト>は人間を幸せにするために機能したことはけっしてなかった。
 逆にひたすら、“自分”以外の者が不幸になることを願う無惨な<ソフト>を産むためにしか機能してこなかったとさえいえる。

 人間が他人の不幸を喜ぶ生き物であることを文学的に辛辣に描いたのはドストエフスキーだったが、この「比較」という大きな<ソフト>は、私たちの生から喜びを奪うことでエゴを養ってきたのかもしれない。
 人間は“自分”というエゴを通して成長して行くしかない。
 その成長の駆動力が「欲望」と呼ばれるものだったが、それは“自分”というエゴの幸福を願う駆動力でしかなかった。これに「比較」という反転のギアを噛み合わせると、「欲望」は“自分”で光の方へ上昇する困難な道を選ぶ駆動力となるよりは、“自分”の現状で疑似的な幸福を作り出すために、他人が“自分”よりも惨めであることを願う<ソフト>に転化してしまう可能性が常に存在していた。
「あら、この算数のテスト、あなた六〇点じゃない」
「だけど、僕の隣の子なんか四〇点だよ」
「比較」という<ソフト>は、大なり小なり、このようにしか機能しなかった。

 スポーツの祭典といわれるオリンピックも、内部に仕込まれてあった「比較」という<ソフト>が肥大すれば、祭典など絵空事にすぎなくなるだろう。若さと健康を祝うはずの当の若者たちが、虚構の栄光を餌に思考力を奪われ、自らの肉体を疲弊させてまで過酷な競争に駆り立てられているのだとしたら、誰が何のためにオリンピックを仕組んでいるのかを、じっくり考えてみる必要があるというものだ。
 昨今のこのただ事でないスポーツ流行り。
 いったいどんな力が働いているというのだろうか。私たちはなぜこれほど愚劣な「競争」と、架空の「比較」に走らなければならないのか。おそらく、私たちはただ人間としての尊厳と責任を手放すための口実を必要としているだけなのではないだろうか。
 そして、その求めに応じて、その口実を提供してくれる者を地上に出現させているのかもしれない……。

「比較」とは、一人ひとり質的にまったく異なった独自な存在である人間を、虚構の同じトラックに並べて序列を決めようとする試みに他ならない。こんなことが人間を幸福にするはずはないが、私たちはなぜか深くこの「比較」というソフトに絡め取られてしまった。
 あまりにも深くこの<ソフト>に条件づけられているために、私たちは「比較」に汚染される以前の、生がすべてが喜びであった幼年の日の自分を思い出すことすらできなくなっている。私たちは、ゴールを目指しての苦闘という幻想の中で、人生の大部分をひたすら浮き足立った焦りと苦渋に満ちた「競争」で塗りつぶしてしまう。
 不幸があまりにも当たり前になれば、理由もなく幸福である『虔十【けんじゅう】公園林』の虔十のような者は「お目出たい」という敬称を奉られるだけだ。
「目出たい」とは、本来、そして今でも、祝うべき状況を表す言葉だ。
 だが、それをあまりにも日常からかけ離れた状況と見る“真面目な”大人たちは、この言葉を「愚か者」を表す言葉にしてしまった。

 けれども、本当に理由もなく幸福であることは“愚か”なことなのだろうか。
 そして、理由もなく不幸であれば、それは“賢い”のだろうか……。
 幸福であるにはマインドが納得する理由がなければならないという“合理性”こそが、実は私たちの“眠り”の深さを表していたのかもしれない。それが私たちが観てきた“夢”だったのかもしれない。私たちの地球は今その深い靄の中から出ようとしているのかもしれない。
 理由もなく不幸であることが正常なはずがない。
 逆に、あらゆる瞬間に「比較」に身をさいなみ、深刻で、不機嫌で、“真面目”に人生を苦闘で満たすことの方がどれほど病的な異常事態であることか。もし、理由もなく不幸であるなどという不思議な選択さえ可能であったのなら、私たちが何の理由もなく幸福になることに、どんな困難があるというのだろう。
 いみじくもOSHOは教える。
「人生には、存在の歓喜に酔っぱらうか、心配で気も狂わんばかりになるかの、どちらかの酔っぱらいしかいない」と。 (p320-322)


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